A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

教育事情 vol.1

人口1億人になりなんとするベトナムの国民平均年齢は、約33歳で、日本(約47歳)よりずっと若い。男女平均寿命は日本の84・3歳に対し、ベトナムは73・7歳(ともにWTO調べ、2019年現在)と、約10歳の開きがある。

国が若いということは単純に、子どもが多いということを意味する。ベトナムの義務教育は、小学校5年間と中学校4年間。就学前の1年間もカウントされるので、計10年間、義務教育を受けなければならない。ちなみに、高校教育は3年間なので、システム上は日本と大差ない。

ところが、子どもたちが学校に通えるかどうか、となると話は別で、義務教育を全うできない家庭の問題は、長年くすぶり続けている。

筆者がハノイで暮らしていたころ、こんな話を聞いた。

貧しい地方では、小学校中学年になるとクラスメートが減り始め、小学校卒業のころには半減。それが、中学校卒業のころにはさらに半減する。さらに、高校卒業のころにはさらに半減するという。つまり、義務教育を全うできる子どもは、全体の4分の1にとどまり、高校を卒業できるのは同8分の1という計算になってしまう。

理由はただひとつ。教育費を払えない、もしくは払いたくない家庭が多かったからだ。特に農村部では顕著だった。

2017年まで続いていた「2人っ子政策」の影響で、都市部や一部の富裕層の家庭で生まれた「3人目」以降の子どもは、いつの間にか里子に出されたり、貴重な労働力として引き取られて行ったりした。2人っ子政策は、共産党員や軍人、公務員を対象にした限定的産児制限だったとはいえ、給与カットや左遷が必須だったので、3人目ができてしまった家庭は悲劇だった。

元々、子どもは国の宝、という考え方の根強いお国柄である。しっかり生み、育てることを地域社会の中で徹底し、隣家の子守もごく普通にこなす国民性は、いまの日本が失いつつある美徳としてうらやましい限りだった。

そこに、コロナ禍がやってきた。現地からの報道によれば、ホーチミン市の小学校では、今月半ばから始まる新学期の最初の10週間はオンライン授業で対応し、コンテンツ制作を急いでいるという。元々、どちらかといえば理系志向の強いカリキュラムでIT立国の途上にあったこともあり、都市部の子どもたちはきっと、新しい授業の流れについて行けるだろう。

問題は、貧しい農村の子どもたちだ。就学率の格差はいまも厳然とあり、南部メコンデルタの高校では50%そこそこという調査もある。 一次産業の就業率の高い地域ゆえ、「小さな働き手」が重宝されているのかもしれない。

さらに、気になることがある。人工中絶の増加だ。ベトナム総合情報サイト「VIETJO(ベトジョー)」の2019年9月25日配信号によれば、人工中絶件数は当時、年間30万〜35万件あり、うち62%が意図しない妊娠だったという。記事では、この背景として「避妊具使用率が低い水準に留まっている」と分析している。

ちなみに、日本の人工中絶件数は年14万〜15万件で推移しており、ベトナムの半分以下だ。よそ様の身の下事情に首を突っ込むつもりはないし、私見の域を出ないが、命を軽んじない教育、平たくいえば、避妊具の重要性についての知識は、家庭の中より学校現場や友人同士の会話の中でこそ説得力を持つ。就学率の低さは、そうした人生に必須の情報も遮断することになりかねない。

かつてベトナムでは、母親が我が娘に、バースコントロールの大切さをきちんと教え、大人の階段を踏ませて行ったと聞く。教育格差の拡大が、ベトナム人の美徳をも台無しにすることのないように願う。大きなお世話は百も承知である。

●トップ画面:ベトナムの小学校は5年制。都会の学校は近代的な建物になっていることも多く、国の若さを感じる(2019年3月、ホーチミン市内/筆者撮影)


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。https://www.nhatviet.jp/

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