日本での幸せライフレシピ
表現の違い
ベトナム人と日本語でコミュニケーションをとる際、たまにすれ違いが生じる場合があります。仕事現場においては、ちょっとした言い回しや態度の違いが誤解を生むことも。ここでは日本語における表現の違いについてみていきたいと思います。(今回は、私の実体験を紹介します)
<登場人物の紹介(仮名)>
リンさん:コワーキングスペースのベトナム人スタッフ
朝木さん:コワーキングスペースを契約したい日本人
<会話>
朝木: コワーキングスペースを借りたいんですが、月契約はできますか?
リン: はい、できますよ。専用デスクとシェアスペース、どちらを使いますか?
朝木: シェアスペースです。 コピーや印刷はできますか?
リン: はい、スキャンもできます。配達の代理受け取りと配送、簡単な日越通訳もします。コーヒー、お茶は無料で提供します。
朝木: 来客があった時、対応できるスペースもありますか?
リン: もちろんです。会議室や応接スペースがあります。街の中心部にあるのでどこにも出やすく、お客さんにとっても便利だと思います。
朝木: 良い条件がそろっていますね!
リン: はい、契約料も、かなりいい値段ですよ。
朝木: いい値段?
リン: はい!いい値段です。この点は自信があります!
朝木:(自信を持つほどのいい値段って? 確かにこれだけの環境なら、ある程度の値段はするだろうけど、こわくて契約できないな…)
<原因:表現の違い>
この後、値段を聞いてみたら、実際はかなりお得な値段だということが分かりました。オフィスのスタッフの人は、「良心的な」「お得な」といった意味で「いい値段」と言っていたのです。これはベトナム語からの直訳だということでした。
このように日本語でベトナム人とコミュニケーションを取る際、ちょっとした表現の違いで大きな誤解を生む場合があります。
表現の違いを態度にまで広げると、さらにさまざまな事例があります。
よくあるのは、ベトナム人スタッフが来客にぬるいお茶や水を出したというもの。日本人なら「お客さんには熱いお茶、冷たい水を出すべき」と思うかもしれません。しかしここには、熱いお茶でやけどをしないように、飲みやすいようという、ベトナム人なりの気づかいがあります。
また何も言わないことが、何かを表現している場合もあります。これも体験談ですが、とあるベトナム企業から日本語冊子制作の見積もり依頼が来ました。これに対し見積もりを送ったのですが、先方からはいつまで経っても返事がありません。返事を催促してもなしのつぶて。ベトナム人の知り合いにこの状況について聞いてみたら「それ、提案を断るという暗黙のサインですよ」ということでした。
そうです、ベトナムでは何かを断る場合、はっきり断るケースもありますが、まったくの無言ということが結構多いのです。これを知らずに腹を立てる外国人がいますが、現地の習慣の1つということで知っておいた方が良いと思います。
<対応>
ベトナム人が話の趣旨や流れからそれることを話したり、日本の商習慣にそぐわない素振りをした場合、はっきりとその意図を聞いてみることが誤解を解くカギになると思います。後で挙げた例のように、何も言わないことが意思表示になる場合もあります。その際も周囲のベトナム人に聞くなどして、とにかく状況を自分なりに納得していかなければ、ベトナム人の発言や行動の真意が理解できないもやもやした状態が続きます。
逆に言えば、自分の何気ない発言や態度がベトナム人には謎になっているのかもしれません。そうした意味でも、互いにコミュニケーションしやすい職場づくりは、異なる国の人同士がともに働く現場でこそ生きてくるのではないかと思います。