A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

理解と誤解 Vol.2

ベトナム人をめぐる悲しいニュースが後を絶たない。先日も、技能実習生230人から計2000万円の賃金を搾取した疑いで、大阪のブローカーが書類送検された。報道によれば、ブローカーはコロナ禍で職を失い、困窮していた彼らを長野県内の農家に送り込み、賃金をピンハネしていたとされる。

先号「ベトナム見聞録 理解と誤解 vol.1」でご紹介したように、技能実習制度の本旨は、日本で働きながら学んだ技術を帰国後、本国の発展のために生かしてもらうことにある。技能実習法でわざわざ「労働力の需給調整の手段として行われてはならない」とうたわれた理由もそこにある。

しかし、現実はどうか。

悪徳ブローカーが暗躍し、技能実習生を食い物にしている——。そんな話がここ数年、筆者のようにベトナム人と接する時間の多い日本人の耳には、繰り返し伝わっていた。

日本企業のベトナム進出が本格化したここ20年ほどで、日本にやってくるベトナム人も急速に増えた。毎年2ケタ近いGDPの成長を続けてきた半面、ベトナム国内では経済格差が広がった。富を持たざるベトナム人は家族を救うため、続々と日本にやって来た。そして「悪い奴ら」に絡め取られるベトナム人が増えた。

遵法意識が希薄で、非難されてしかるべきベトナム人が相当数いるとしても、彼らの責任だけを声高に叫んでも、彼らを取り巻く構造的搾取のシステムはなくならない。在日ベトナム大使館は「送り出し機関による手数料等の過大徴収が技能実習生の失踪の原因ともなり得る」「受入企業にとっても、人材確保コスト を押し上げるだけではなく、コンプライアンス上の問題にもなりかねません」と注意を促してはいる。

しかし、日本の現状を誤解したままのベトナム人につけ込んだ日越両国の悪徳業者はなかなか一掃できない。

ベトナム南部のロンアン省出身で、日本に留学、就職後の1979年に帰化した三城久男さん(69)は著書「ロンアンの蓮華」(七草書房)の中で、同胞を取り巻く現状について、こう訴えている。

「ベトナムから日本に留学生や実習生を送り込むエージェント等が金儲け主義に陥り、適切な人材を送り込む努力を怠り、他方、彼らを受け入れる日本企業側も十分な体制を整えないまま受け入れる」

「犯罪の根となるものを断ち切り、日本にやってくる青年たちをサポートする態勢を整え、日本で楽しく勉強ができ、帰国後、日本は良い国で日本人は親切だったという思い出をもって自国の発展と繁栄に貢献できるような温かな配慮と尽力をお願いしたい」

「ロンアンの蓮華」が書かれたのは、2016年。この4年間で技能実習生の失踪問題をはじめ、事態は悪化の一途をたどっている。

日本に帰化した三城久男さんが出版した「ロンアンの蓮華」。日本で学び、働く苦労と喜びにあふれている一冊

現在、留学生と技能実習生にビジネスマナーや日本語を教える三城さんに、誤解を理解に変えるヒントを聞いてみた。

「私が見る限り、日本にやって来る技能実習生の約9割は、おカネ目当て。日本人が嫌がるきつい仕事を、安い給料でやらせるために、ベトナム人を雇う事業者が少なくない。そういう関係があることはみんな知っている。日本政府は移民を受け入れたくないようだけど、この国はもう、外国人がいなければもたない」と話す。

東京・代々木公園で11月7、8の両日開催された「ベトナムフェスティバル2020」は、規模を縮小しながらも入場者4万5000人を数え、大成功のうちに閉幕した。200万円以上を売り上げた飲食店もあったという。ベトナム人が日本人の生活圏に根を張っている証拠のひとつだろう。

当然ながら、日本人もベトナム人も、同じ空気を吸い、同じものを食べ、同じ時間の中にいる。誤解を理解に変えていく知恵を、日越共同で絞らなければならない。

ベトナム料理を求め多くの人が列を作った「ベトナムフェスティバル2020」
=東京・代々木公園で11月8日

◆トップ写真:
多くの参加者で盛り上がった「ベトナムフェスティバル2020」のグランドフィナーレ=東京・代々木公園で11月8日


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。

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