日本での幸せライフレシピ
変わりゆくベトナム人
経済発展で街が目まぐるしく変化しているベトナムですが、それは人も同様です。今回は変わりゆくベトナムの姿を、人という切り口からご紹介したいと思います。
ぱりっとのりのきいたYシャツにしゃれた革靴、短く整えた髪。都心のオフィス街で見る若手男性社員たちは、とても清潔で都会的です。工場が多いお国柄、ベトナム人男性といえば生産現場の作業着姿を思い浮かべがちですが、都市部の男性は、もともと美意識の高い女性にも負けないほどおしゃれです。
英市場調査会社のユーロモニターは、ベトナム男性のグルーミング市場が、2020年の2億2,100万ドル(約252億5,190万円)から2025年には3億4,000万ドル(約388億5,248万円)へと成長を続けると予測しています。ワイルド系や癒し系など「イケメン」にもさまざまなタイプがありますが、ベトナムではさわやかさ、清潔さを重視する男性が多いようにみえます。これは憶測ですが、当地でも大人気の韓流スターの影響ではないかと考えられます。
若い人は見た目同様、考え方も変わってきています。ある日、20代のベトナム人女性会社員が言っていたのが「私、今回は社員旅行に行かないつもり」というもの。理由は「他人に気を使うより、自分が好きなことをしていたいから」。
「ベトナム人は食事会や社員旅行を喜ぶから、毎年必ずやってるよ」。以前、ハノイ市郊外で機械工場を運営する日本人社長の話を聞き、「ベトナム人=社内イベント好き=全員参加」という固定観念があったため、前述の言葉は衝撃的でした。この女性会社員は、とりわけ人付き合いが悪いというわけではないので、本当に予想外の発言でした。
もちろん、すべての人がそうではありません。しかし都市部を中心に若者は個人主義が進んでいるように見えます。
既に高齢化社会
「若くて豊富な労働力」。ベトナム投資の魅力としてよく挙げられる項目です。確かにベトナムの街を歩くと、結婚写真を撮影するカップル、子ども、学生を多く見かけ、若い国だということが実感できます。
しかし一方で高齢者が2021年4月時点で1,340万人に達する高齢化社会というのも、ベトナムのもう1つの顔です。ベトナムは2017年に高齢化社会に突入しましたが、その17年後の2034年には高齢社会になると予測されています。これはベトナム同様、東南アジア諸国連合(ASEAN)で高齢化社会を迎えたタイ(20年)やシンガポール(22年)よりも進行速度が速い計算になります。急速な社会変化が生み出す副産物が、こうした点から見えてきます。
しかし逆に、こうした社会だからこそ商機が見いだせる部分もあります。日本より家族が同居するケースが多いのでまだ一般的ではありませんが、既に介護施設が登場しており、日本企業も進出しています。ベトナムは共働き夫婦が主流の国。昼に親の面倒をみられないとなれば、デイサービスも増えそうです。
2016年、ハノイ市郊外にある介護施設を取材する機会に恵まれました。施設内には個々の部屋と広い食堂、中庭といった施設を完備。スタッフも十分におり、過ごしやすそうな施設でした。当時は個室の入居料が700USD~という話でしたが、人件費が上がった今は値上げしているかもしれません。
一方でバリアフリーでない部分や不便な動線など、入居者のことを考えると改善が必要ではと思われるところも一部ありました。こうした設備やサービスが今後改善されなければ、淘汰されることになるでしょう。今こうして確信できるのは、高齢者市場のプレーヤーが増え競争が発生し始めているからです。
このほか保険やヘルスケア、介護用品など、高齢者をターゲットにする分野が大きなマーケットになることが見込まれます。
人の変化と共に市場も変化しています。その流れは急速ですが、逆にうまく利用すればビジネスの成功につながるのではないでしょうか。
あさき・ともみ 秋田県生まれ。2000年からライター、韓国語翻訳・通訳、日本語教師と、言葉に関連した仕事に携わっている。2012年からハノイ市に居住。ベトナム航空機内誌「ヘリテイジ・ジャパン」への執筆や編集など活動を続けている。