日本での幸せライフレシピ
共存する昔と今
ベトナムの街は、経済成長のためどんどん開発が進んでいます。街に降り立ってみると、まるで昔と今が共存しているかのような景色が目の前に広がります。今回は目まぐるしく変わるベトナムの街を、住宅と都市鉄道といった切り口からお伝えします。
「ノンラー」と言われる葉笠をかぶった女性が、果物を載せた天秤棒を担いで売り歩くのどかな姿。その背景には、数十階もあろうかという高層ビルがそびえたっています。摩耗しきった舗装道路をピカピカのポルシェやBMWが走り、壁がはがれレンガむき出しの古い家々を見下ろすように、最新の都市鉄道が走っています。
会社設立のためハノイ市を視察に来た、とある日本人社長がつぶやいた一言、「街のどこかしらで工事をやってるなぁ」。その通りです。今この瞬間もビルが建ち、道路が通って、風景が目まぐるしく変化中です。とくに開発著しいのが郊外。数百戸分の住宅を備えたニュータウンや高層マンション開発が活発です。
そしてこれら新興住宅は、もはや富裕層だけのものではありません。所得が向上しているので、中間層でも購入は可能。なかには最初から中間層をターゲットにした住宅もあるほどです。
ハノイ市に住むベトナム人夫婦の事例をご紹介します。共働きの夫婦と子ども2人の4人家族で、月収は計1,800ドル近く。最近、中心部へ通勤圏内にある新築マンションの2LDKを10年ローンで購入しました。購入金額は秘密だそうですが、彼らでもローンを組めば手に入る中間層向け物件です。
じつは旦那さんは生粋のハノイっ子で、市内に両親が暮らす一戸建てもありますが「誰を招待しても恥ずかしくない家に移りたい」と購入を決断しました。彼が生まれた旧市街地はハノイ一の観光地であり、街並みの保全区域でもあることから大規模開発が難しく、老朽化した家が密集しています。彼の実家も例外ではありません。それでもハノイ市の都市化は避けられず、旧市街地を除く中心部にはビジネスビルや高級マンション、そして郊外には住宅と、余地さえあればビルが建っているのが現状です。
引っ越したマンションについて奥さんは「広いしきれい、インフラやセキュリティも万全。親子水いらずで過ごせる」と満足げです。2人の言葉から、中間層が住宅に何を求めるのか見えてくる気がします。デベロッパーもこうした需要を見逃すはずがないので、中間層向けや郊外型の住宅はこれからも増え続けそうです。
※中間層
https://www.viet-jo.com/news/economy/211214203553.htm
定着するか、通勤電車
郊外の住宅と中心部をつなぐのが都市鉄道で、街づくりには欠かせない要素です。ベトナムではハノイ市で中心部カットリン駅と南西部ハドン区のイエンギア駅をつなぐ都市鉄道2A号線が2021年11月6日、初開通しました。最初は物珍しさから駅で記念撮影する人、電車内で動画中継する人など、まるで遊園地に新しいアトラクションができたかのような賑わいぶりでした。
ところでベトナム名物といえば、バイクが道路を埋め尽くす光景です。最初は「エネルギッシュだなぁ」などと高みの見物をしていたのですが、バイクの後部座席に乗るバイクタクシーで渋滞に巻き込まれた際、実際そんなのんきなものではないことを実感しました。隣のバイク運転手と手足がぶつかるほどのひしめき合い、歩道にあふれ出すバイク、目や鼻に入ってくる排気ガス……運転する本人たちは当然ながら、決して楽しんではいないのです。
そこでハノイ市とホーチミン市では、2A号線に続く都市鉄道の建設が進んでいます。計画ではすでにハノイ市で8号線、ホーチミン市で2号線までの建設計画があるため、先に言及した郊外住宅の建設も、これに合わせて進んでいると思われます。
バイクの多い現在は想像もつきませんが、数年後には郊外から都心へ通勤する日本のような光景が日常になっている可能性もあります。瞬時に風景が様変わりし、昔と今が共存する感覚を、ベトナムでは今後しばらく感じられることでしょう。
あさき・ともみ 秋田県生まれ。2000年からライター、韓国語翻訳・通訳、日本語教師と、言葉に関連した仕事に携わっている。2012年からハノイ市に居住。ベトナム航空機内誌「ヘリテイジ・ジャパン」への執筆や編集など活動を続けている。